第211回国会 衆議院 憲法審査会 第13号 令和5年6月1日
立憲民主党の近藤昭一でございます。
私は、緊急事態条項及び緊急事態における国会議員の任期延長問題について発言をさせていただきたいと思います。
そもそも緊急事態条項とは何かということでありますが、自民党は二〇一二年に、憲法改正草案を発表しました。その内容は、一つ、内閣が緊急事態宣言を出し、二つ、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定でき、三つ、予算の裏づけなしに財政上必要な支出その他の処分ができ、そして四つ、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる、五つ、緊急事態中は基本的人権の保障が解除されるというものであります。
内閣が緊急事態宣言を出すことで、内閣は、一つ、国会の立法権、二つ、予算の決定権、三つ、地方自治体を独占し、四つ、国民の基本的人権を侵害できるなど、憲法の民主主義、基本的人権に関わる諸原則を停止できるという内容であります。つまり、緊急事態条項を創設することによって、緊急事態において憲法の根本的原則を停止できるということになるわけであります。ですから、私は緊急事態の創設に反対をします。
長谷部参考人が、平時と緊急時の区別を重視し、緊急時の対応はあくまで臨時的措置にとどめ、平時の憲法上の諸原則の維持に努めることを強調したのは、緊急時の対応が憲法の諸原則を停止することになるからだと思います。
では、緊急事態における国会議員の任期延長についてはどう考えるべきでありましょうか。
緊急事態における国会議員の任期延長についても、一つ、国民の選挙権を実質上制限をする、二つ、国会議員であることの正統性の根拠が乏しくなる、三つ、内閣に選挙困難の認定を委ねると、内閣が恣意的に国会議員の任期を延長する濫用を生むなどの問題があります。結局、国会議員を固定化し、内閣の独裁を生むおそれがあります。
長谷部参考人は、先ほど我が党の中川筆頭も述べたとおり、緊急事態の恒久化のおそれがあると指摘されました。実際、一九四一年に、衆議院議員の任期が任期満了前に一年間延長されたことがあります。
その理由は、今日のような緊迫した内外情勢下に、短期間でも国民を選挙に没頭させることは、国政について不必要にとかく議論を誘発し、不必要な摩擦競争を生じせしめて、内外外交上甚だ面白くない結果を招くおそれがあるのみならず、挙国一致防衛国家体制の整備を邁進しようとする決意について、疑いを起こさしめぬとも限らぬので、議会の任期を延長して、今後ほぼ一年間は選挙を行わぬこととしたというものであります。まさに、政権が独裁化し、戦争を遂行するための国会議員の任期延長と選挙の先送りだったのであります。
むしろ、緊急事態に必要なのは、国会議員の任期延長ではなく、どんな状況でも選挙ができるようにする平時からの備えであると思います。この点では、大石参考人が、改憲ありきではなく、立法による備えの必要性を述べられていました。日弁連からその具体的内容について提案がなされていることは、先ほど中川筆頭が述べたとおりであります。
今日、日米と中国との緊張関係が取り沙汰されています。こうしたときに求められるのは、戦争することを前提とし、憲法諸原則を停止させる緊急事態条項の創設ではなく、戦争しないための徹底した平和外交の努力ではないでしょうか。
許し難いロシアのウクライナ侵攻によって、ウクライナの死者は一万人を超え、難民は一千万人を超えています。人々の生活は壊され、自由も奪われています。ロシア側の兵士も、多くの人々が強制的に徴用されています。一旦始まった戦争は拡大をしていき、終結する見通しは立ってはいません。
過去の日本の起こした戦争でも、アジアの人々は二千万人、日本人も三百十万人が亡くなられています。一旦戦争を始めると、その犠牲はおびただしいものになります。国民一人一人の命と生活を守るのが安全保障であり、政治家の使命ではないでしょうか。
その観点からいえば、戦争を回避することこそ安全保障の核心でなければなりません。日本が、台湾有事を想定し、米国と一体となって敵基地攻撃能力を保有し、軍事予算を無制限に拡大することは、中国にとっては威嚇と感じ、日米を上回る軍事力を増強しようとするでしょう。こうした軍拡競争は、国民一人一人の生活を壊し、戦争を招くおそれを大きくしていきます。
日本が取るべき戦争回避の道は、際限のない軍拡をやることではありません。憲法九条一項に定められた武力による威嚇や行使をしないという立場を発信し、平和的な手段による問題解決を自ら率先し、他国に促すことであります。日中の共同声明また米中の共同コミュニケでも、この原則を合意をしています。この原点に立つよう、中国、米国に働きかけることこそ重要であります。
日本が再び戦争の道に踏み出さぬよう、また、国民の皆さんの命と生活を守るために、政治家の使命として、徹底した平和外交を行うべきと考えます。
ありがとうございます。